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ソフィア総合研究所の考え方

「実業」のブラジル


先日、たまたまテレビを見ていたところ、NHKスペシャルで、ブラジルの経済の近況について取り上げていました。その内容が非常に興味深いものでしたので、ご紹介したいと思います。

ブラジルの景況も、他の国と同様に、今回の世界規模での不況の影響を受けつつあることは確かなようです。しかし、その傷口は思ったより小さいようで、それは何故かということのヒントらしきものが、このテレビ番組の中で語られていました。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ブラジルは、1980年代後半には、軍事政権下の経済の破綻から、年率換算で5千%という高いインフレを経験しています。この苦境を救ったのが、1989年に始まった民政の初期に、蔵相を務め、後に大統領となったカルドーゾという人物であると言われています。カルドーゾは、「レアル・プラン」と呼ばれる一連の施策を策定し、ブラジルの各分野における構造改革を強力に推進しました。 この改革の過程で、カルドーゾは、インフレを終息させ、国民の大半を占める貧困層の生活水準を飛躍的に向上させました。また、憲法の改正を行い、外資企業に対する差別の撤廃、石油、電話、都市ガスの政府独占の廃止、沿海航路の外国企業への開放など、経済の効率化を実現しました。

これらの施策の成果は抜群で、ブラジル経済は健全化へ向けての道筋を着実に歩み始めました。1997年のアジア危機にはほとんど影響されず、1998年のロシア危機も無事乗り切ることができました。その後のアメリカ経済の空前の好景気の継続と、アジアを始めとする世界経済の回復傾向も追い風となって、現在の持続的成長軌道に乗ることができました。

しかし、冒頭で述べたように、現在の世界同時不況に対しては、ブラジルも全く圏外というわけにはいかなかったようです。これまで通りの成長軌道が、そのまま続くとは思えない状況になってきました。ところが驚いたことに、最近の報道によれば、ブラジルのルーラ現大統領は、世界のすべての国が経済対策としての財政出動を行う中にあって、プライマリーバランスの黒字化という、財政の健全化へ向けての従来方針を堅持しようとしているとのことです。前置きはこれくらいにして、これからは、テレビ番組の中で紹介された内容です。

ブラジルでは、1970年代半ばに、砂糖きびを原料とするバイオエタノールの製造を実験的に始めました。最初は障害が多く、かなり難航したようですが、石油の枯渇が取り沙汰されるようになって、現在では、このバイオエタノール産業が、ブラジルを支えるまでに発展しています。広大な国土の一部を砂糖きび畑に変え、そこから作り出されるバイオエタノールを、国内の自動車の燃料の一部として使用し、余剰分は輸出をして、多額の外貨を稼いでいます。

この地球環境を守るという世界の潮流に沿った、バイオエタノールの生産という国家事業によって、ブラジルに多大な雇用が創出され、その結果としての消費の拡大も実現しています。

番組の中で、ブラジルの片田舎の夫婦が、かねてから夢であった自家用車を手に入れることができたと、大変喜んでいました。その夫婦は、この車を買うことによって背負った借金ローンを、これから一生懸命働いて返していくのだと言っていました。

感銘を受けました。ブラジルでは、働いて得たお金で、自分たちの欲しいものを手に入れるという、ごく当たり前のことが、人々の生き方の基盤になっているのです。サブプライムローンに象徴される米国での、欲しいものはローンで手に入れる、しかし、そのローンが将来の収入によって確実に返済できるという保証は無い。言い換えると、消費は身の丈を越えた借金で支えるという考え方とは正反対です。

このことを裏付けるように、番組の中では、ルーラ大統領が企業の経営者に向かって、働く人達の雇用を守ってほしい、働く人達の職場を増やして欲しいと訴えていました。

広大な土地を活かし、地球環境を守るという、今もっとも大切なことを実現する。その結果として、国民の雇用の機会が拡大、増加し、結果として消費が成長、拡大して、国民が幸せになる。これこそ、今の日本、世界が目指すべき、「実業」の真髄ではないかとつくづく考えさせられたひとときでした。